在宅医療連携拠点たんぽぽ

医療法人ゆうの森

今回、多職種連携の課題に対する解決策を抽出するために集まった在宅医療に積極的に取り組む皆さんをクローズアップし、当地域の連携の素顔に迫ります。

患者や家族、地域の実情にマッチした在宅看護をコーディネートする地域看護専門看護師医療法人 聖愛会 ベテル在宅診療部ベテル在宅療養支援センター 所長 吉田 美由紀さん

地域全体の健康を見る、全国に23人だけの貴重な人材

 「専門看護師」という資格をご存知でしょうか。日本看護協会が認定する資格で、精神看護、がん看護、老人看護など10の専門分野があります。資格を取得するには「看護師・保健師・助産師いずれかの資格」「大学院修士課程修了者」「通算5年以上の経験、そのうち3年以上は専門看護分野の経験」などの条件を満たさなければなりません。今回取材させていただいた吉田美由紀さんは、地域看護を専門にする「地域看護専門看護師」で全国にわずか23人、愛媛では唯一の貴重な人材です。
「地域看護専門看護師は個人の健康だけでなく、地域全体の健康を見る看護師です。複数の患者さんに共通する課題を見つけ、その原因が行政(県・市町村など)や地域(街・集落など)、集団(学校・企業・団体など)にある場合は、改善方法を担当窓口に提案するほか、地域の病院や介護施設などと連携し、在宅看護や退院支援の調整を行います」。
地域看護専門看護師の仕事の中でも、吉田さんは「在宅看護」を専門にしており、現場での看護経験も豊富です。吉田さんに病院と在宅の看護業務の違いをお聞きしました。「病院では医療者側が主導権を握っています。食事や就寝などは病院のルールに従ってもらいますし、診察や投薬を拒むことは基本的にできません。一方、在宅医療の主導権は患者さんとご家族にあります。医療者は支援はしますが、実際に医療に関する行為や生活の改善を実践するのは患者さんとご家族。必要ないと思えば、無視することもできます。だからこそ、その行為がなぜ必要なのか、それにより介護の負担がどれだけ軽減されるのかを十分説明し、納得いただくことが大切です」。
スタッフが患者の家に入るには、本人または家族に鍵を開けてもらわなければなりません。快く門戸を開いてもらうためには、その家の生活習慣や価値観などを把握・理解した上で最適な在宅生活のサポートプランを提案し、患者と家族の信頼を得る必要があります。

学生時代に在宅看護の重要性と課題に気付き、猛勉強

 高校卒業後、愛媛大学医学部看護学科に入学した吉田さんは、看護実習で介護サービスに同行したのがきっかけで、在宅看護に興味を持ったそうです。「当時は保健師や行政の看護師が介護プランを作っていました。プランを実践した患者さんがどんどん元気になり、家族の介護負担が減るのを目の当たりにして、在宅看護の重要性に気付きました」。
卒業論文のテーマは「病院の看護師と保健師の連携について」。それぞれにアンケート調査を行ったところ、看護師と保健師の連携不足が在宅看護の妨げになっていることがわかりました。大学卒業後、外科の看護師として2年間勤務しながら、専門看護師の資格取得を目指し、大学院進学のための受験勉強を続けました。聖路加看護大学大学院(東京都)に進み、卒業後、3年間の実務経験を経て、晴れて地域看護専門看護師になります。
そんな吉田さんには、今でも忘れられない患者さんがいます。在京時に出会った50代の独り暮らしの女性です。「すでに亡くなられていたご主人と駆け落ちして東京に来ていたので、近くに頼れる人はおらず、田舎の家族とも音信不通の状態でした。最初に自宅を訪ねたときは全身浮腫があり、寝たきりに近い状態で、冷蔵庫は空っぽ。“独りで不安な思いをしているのでは”と気になり、ときどき夜に電話を掛けていたんですよ。本人と話合って音信不通だった実家に電話をしてあげると、気になっていたお墓の問題が解決し、とても喜んでくれました。その方が亡くなったとき、枕元に私の名刺が置いてあり、裏には“大好きな人”と書かれていました。嬉しさと同時に、『どれだけのことをしてあげられたのか、もっとできることはなかったのか』と自問自答する自分がいました」。
生前に女性からもらったバスタオルは、今でも大切に使っているそうです。

患者や家族を主体に考えることが何より大切

 吉田さんが務めている「在宅療養支援センター」の役割をお聞きしました。「病院の連携室とほぼ同じですが、在宅側に立って退院調整を進めています。別の言い方をすると“医療と介護の橋渡し”ですね」。退院調整を在宅看護経験者が行うことに大きなメリットがあると言います。「在宅療養のデメリットが言えるのが一番大きいですね。難しさやご家族の負担を説明し、次にその対策を提案します。患者さんやご家族が『それなら自分たちでできます』とおっしゃっていただければ、こちらも安心して手続きができます。また、地域の事情に精通した看護師がコーディネートすることで、さらなる安心感につながります」。
吉田さんが看護師として大切にしているのは、「患者さんとご家族にとってどうなのか、を常に考えること」。そうすることでスタッフ全員が一体になれ、患者さんやご家族からは“一緒に戦ってくれるメンバー”と思ってもらえるそうです。
「在宅医療連携拠点事業」に期待することをお聞きすると「高齢者の患者さんに対するノウハウが蓄積できると思います。また、行政や保健制度だけに頼らない、地域を軸とした医療や街づくりの形が見えてくるのでは」と吉田さん。さらに続けて「多職種のスタッフが互いを尊重し、成長していけるチーム作りが理想ですね」。吉田さんは多職種の中でも特にヘルパーの重要性を教えてくれました。「患者さんの家ごとに料理の味付けや洗濯・掃除の仕方などを替えなくてはいけないヘルパーさんの仕事は、本当に大変だと思います。これからの在宅医療はヘルパーさん抜きには考えられません」。
個人ではなく地域全体を見る「地域看護専門看護師」の吉田さん。しかし現場では、患者や家族はもちろん、スタッフ一人ひとりに目を向けることを忘れていません。そんな環境の中で本当のチームワークが育まれていると感じました。

吉田 美由紀さん

プロフィール

吉田 美由紀(よしだ みゆき)
勤務先・役職:医療法人 聖愛会 ベテル在宅診療部 
ベテル在宅療養支援センター 所長
職種:地域看護専門看護師
生年月日:1976年3月18日
出身地:香川県仲多度郡多度津町