在宅医療連携拠点たんぽぽ

医療法人ゆうの森

今回、多職種連携の課題に対する解決策を抽出するために集まった在宅医療に積極的に取り組む皆さんをクローズアップし、当地域の連携の素顔に迫ります。

利用者一人ひとりの生活を考え、全てを受け入れるベテランホームヘルパー&管理スタッフケアサポートまつやま 所長 三浦 加代子さんケアサポートまつやま 課長 丸田 裕さん

年齢や障害に囚われない環境をグループ全体で構築

 1995年に県内の民間企業として初めて24時間在宅介護サービスを開始した「ケアサポートまつやま」(松山市)は、「介護」という言葉があまり耳慣れない開始当初から、365日・24時間体制を構築し、各種介護サービスを提供しています。今回は現場スタッフの管理・指導をしているベテランホームヘルパーの三浦加代子さんと、各種業務の責任者である丸田裕さんに話を伺いました。
 現在同施設では在宅介護サービスをはじめ、訪問入浴サービスや福祉用具レンタルなどを行っています。またグループ内には通所介護や生活介護、訪問看護、児童デイサービスなどを提供している施設があり、年齢や症状に合わせた幅広い受け入れ態勢を整えています。
 「在宅介護からスタートしましたが、必要なときに、必要なサービスを受けて欲しいという思いから、業務が拡大していきました。核となる在宅介護サービスも、今では難病ホームヘルプや自費サービスまで対応しています」(三浦)
 「当グループの施設利用者は2歳から100歳までと幅広く、障害の度合いもさまざま。年齢や障害に縛られることなくサービスを提供することが私どもの役割だと考えています」(丸田)
 幅広く対応することで、利用者にもスタッフにもプラスになることがあります。「デイサービス施設にはお年寄りだけでなく、障害をお持ちの若い方もいらっしゃいます。お年寄りは若者と過ごすのを楽しみにしています。またスタッフはいろんな年齢の方と接することで、対応力や介護スキルが高くなります」(三浦)
 同施設の特徴の一つは男性スタッフが多いことです。20代から40代までの男性ホームヘルパーが15人おり、利用者の要望により男女どちらを派遣するのか決めているそうです。「調理や掃除なら女性ヘルパーを派遣しますが、男性の入浴介助や外出時の歩行介助は、力の強い男性ヘルパーを希望される方が多いですね。また障害のある男児が外出する場合、幼児期はお母さんと一緒のトイレに入れるのですが、ある程度の年齢になると難しくなります。そんなときに男性ヘルパーがお手伝いします。障害児の社会性を培うことも、ホームヘルパーの重要な使命です」(丸田)

“頑張らなくてもいいよ”に込めた本当のやさしさ

 三浦さんは以前、松山市内の老人福祉施設でケアワーカーとして働いていました。「今でこそ“利用者主体のサービス”が当たり前になっていますが、昔の施設では忙しいときは流れ作業の状態で、利用者のことなど考える暇はありませんでした。あるとき“家に帰ったらこの人たちはどんな暮らしをしているのだろう”とふと思ったんです。家庭の事情や健康状態は一人ひとり違うので、それぞれに合わせたサービスができないかと考えていたとき、在宅介護の話を耳にしました。在宅介護なら訪問している間は、その人のためだけに働けると思い、転職しました」。
 三浦さんは在宅介護の魅力を「仕事に自分の思いを込めることができる」と言います。また「生活の場である自宅には、必ず利用者のこだわりがあります。料理の味付け、洗濯物の干し方、掃除の仕方など全てにあるはず。こと細かい注文を“利用者のワガママだから”と言って無視するのではなく、利用者の気持ちになって実践するのがホームヘルパーの仕事です」。
 そんな三浦さんには、施設利用者が口にした忘れられない一言があります。三浦さんが老人福祉施設時代に出会った、身寄りのない終末期の男性です。「当時はヘルパーになったばかりで、分からないことだらけでした。終末期を迎え苦しそうな男性に対し、医師や看護師は“頑張れ”と声を掛けていました。ある日、男性は精一杯声を絞り出し“早くお母さんのところに逝きたい”と私に言ったんです。これまで頑張って生きてきたのに、まだ頑張らなければいけないのか・・・。そんな疑念が頭をよぎった私はとっさに“もう頑張らなくていいよ”と声を掛けました。すると男性は私の手を握り、スーッと息をしながら一粒の涙を流して逝かれたんです。“頑張れ”という言葉は、ときには人を苦しめることもある。人が生きる意味を考えさせられました」。この話を語っている間、三浦さんもずっと涙を流されていました。

高齢者や障害者を地域で支える仕組みが必要

 前職は情報システムエンジニアの丸田さんは、ケアサポートまつやまの関係者との出会いがきっかけで会社を辞め、専門学校に2年間通い、介護福祉士の資格を取られました。「正直、前の仕事は自分には向いていないと思っていました。こちらの施設の方に出会い、在宅介護の役割や将来性、仕事のやりがいなどをお聞きし、思い切って転職しました。今は“自分の人生を懸ける仕事はこれだ!”と実感しながら、毎日仕事に励んでいます」。
 丸田さんは最近、少し悔しい思いをされたそうです。「子供の頃から10年間ほど在宅介護を利用されていた障害者の方が、県外に引っ越しされました。その理由が“地元では緊急時の対応に不安が残る”というものでした。地元の医療・介護施設や制度が充実していれば、生まれ育った故郷でずっと暮らせたのに、本当に残念です」。
 そんな思いがある分、丸田さんは今回の「在宅医療連携拠点事業」に期待を寄せています。「多職種の方と連携し、協働することで、お年寄りや障害のある方を地域で支えていく仕組み作りができるといいですね」。
 現在もホームヘルパーとして活躍している三浦さんに、仕事上、大切にしていることをお聞きしました。「“こんな私でよかったら、気持ちをぶつけてください”という思いで利用者の方と接しています。誰でもいいことは話しやすいのですが、愚痴や文句は他人には言いにくいもの。それでも言って欲しいんです。どんなことでも受け止めますから。悩みや要望を私にぶつけて欲しいのです。長年の経験上、聞く側にどんなことでも受け止める覚悟があれば、話す側は不思議と無理難題は言わないもんなんですよ」。

医療知識の習得と医療者とのコミュニケーションが課題

 介護保険制度の改正により、ホームヘルパーの医療行為が、一部認められるようになりました。ホームヘルパーの役割が充実することで、在宅医療が地域に浸透していくことが期待されますが、三浦さんは警鐘を鳴らします。「利用者にプラスになるので大賛成です。しかし医療者とホームヘルパーの間に信頼関係が無ければ、現場では何もできません」。
 三浦さんが心配しているのは、医師や看護婦とホームヘルパーの医療に対する知識の違いと、互いのコミュニケーション不足です。「例えば訪問看護師の方に“何か変わったことがあったら連絡ください”と言われても、どのレベルの変化を指しているのか、ヘルパーは分かりません。少し容体が変わり、念のために連絡すると“その程度のことで電話しないでください”と言われることもあります」。
 診療現場でも同じようなことがあるそうです。「医師が利用者に“薬は毎日飲んでいますか?”と聞くと、利用者は飲んでいなくても“はい”と答えます。ヘルパーは本当のことを知っているので、医師に伝えられるのですが、利用者の手前もありこちらからは話しかけ辛いですね。もちろん利用者の生命に関わることならすぐに伝えるのですが、どの程度のことまで伝えたらいいのか、悩んでいるヘルパーは多いと思います。医師の方から“ヘルパーさん、本当に薬飲んでる?”と聞いていただければ、とても答えやすいですね」。
 丸田さんもホームヘルパーの重要性を教えてくれました。「利用者の生活に密着しているので、医療者にとって役に立つ情報をたくさん持っています。それらをうまくお伝えできれば、在宅医療の質はもっと上がると思います」。
 最後に三浦さんに多職種の方へのメッセージをお願いしました。「利用者を中心にスタッフ全員が同じ方向を向いて、頑張っていきましょう。よろしくお願いします」。
取材時間が予定を1時間オーバーするほど、お二人は終始熱く語られました。途中、お孫さんの話をする三浦さん、お子さんの話をする丸田さんの笑顔はとても優しく、「普段、利用者と接しているときも、いつもこんなに素敵な笑顔なんだろうな」と感じました。

三浦 加代子さん

プロフィール

三浦 加代子(みうら かよこ)
勤務先・役職:ケアサポートまつやま 所長
職種:介護福祉士
生年月日:1954年2月11日
出身地:松山市
経歴:
平成 3年 老人福祉施設勤務
平成10年 ケアサポートまつやま
丸田 裕さん

プロフィール

丸田 裕(まるた ゆたか)
勤務先・役職:ケアサポートまつやま 課長
職種:介護福祉士
生年月日:1968年5月1日
出身地:伊予郡松前町
経歴:
平成 3年 関西大学卒、情報システム会社勤務
平成 9年 情報システム会社を退職し、愛媛医療福祉専門学校入学
平成11年 ケアサポートまつやま