在宅医療連携拠点たんぽぽ

医療法人ゆうの森

今回、多職種連携の課題に対する解決策を抽出するために集まった在宅医療に積極的に取り組む皆さんをクローズアップし、当地域の連携の素顔に迫ります。

愛媛県で最初に在宅服薬指導業務を開始し、在宅医療の普及に献身的に取り組む薬剤師株式会社ホームメディケア ライフケア薬局 東野店
代表取締役/薬剤師 中矢 孝志さん

患者の生活環境や実態に合わせた服薬指導を実践

  松山市東野2丁目に店舗を構える「ライフケア薬局 東野店」は、在宅服薬指導業務を主軸とした調剤薬局で、松山市内を中心に約600人の患者をケアしています。そのうち約6割は薬剤師が患者の自宅まで薬を届けており、複数店舗を持たない単独店舗の調剤薬局としては、全国トップクラスの規模を誇ります。今回は当薬局の代表取締役で薬剤師の中矢孝志さんにお話を伺いしました。
中矢さんが在宅服薬指導業務を開始したのは平成8年。現在の場所に調剤薬局を開設したところ、隣の病院が在宅医療を行っており、病院のニーズに応えるため愛媛県内で初めて「在宅患者訪問薬剤管理指導」を開始します。「患者さんの自宅を訪問すると、置かれている環境や実態が見えてきます。例えば本当に薬を飲めているのか、飲めていない場合はどうして飲めないのか。原因は本人にあるのか、介護力にあるのかなど。環境や実態を把握し、状況に応じた服薬指導を行うことは薬剤師の重要な役割だと気付きました。また、最期まで患者さんに関われることにも、“在宅”ならではのやりがいを感じました。"もし薬剤師が入っていなかったら、この患者や家族はどうなっていただろう"。そんな思いを繰り返すうちに“在宅”への使命感を感じ、在宅医療中心の調剤薬局を目指しました」。
当時はほかに在宅医療に対応できる調剤薬局は無く、さまざまな医療機関から声が掛かるようになり在宅患者数は増加。中矢さんは10年以上、一人で対応していましたが、24時間365日対応を維持するために、平成19年にそれまでの調剤薬局を法人化。在宅医療専門の薬剤師を増員し、薬局名をライフケア薬局 東野店に変更しました。現在は在宅医療専門の薬剤師7人、外来専門の薬剤師4人で業務に当たっています。

感謝・尊敬・祝福の3つの心で患者に接する

  中矢さんに在宅医療を専門にする薬剤師の仕事の特性についてお聞きしました。「在宅の患者さんは通院困難な高齢者や重症患者、がんの終末期患者、重度身体障がい者が多く、“ケアの密度”が濃くなりますね。例えば、薬が飲みやすくなるように形態を工夫するとか、飲み忘れや飲み間違いを防ぐために患者個々に合わせた服薬カレンダーやお薬ボックスを作成したり、服薬指導をわかりやすく丁寧にするなど。それ以外は外来の薬剤師とほとんど変わりません」。その一方で、在宅だからこそ忘れてはならないことを3つ教えてくれました。「1つ目は“物流”です。通院困難な患者さんは薬を取りに来られません。大切な薬が切れないように細心の注意を払っているほか、必要なときに必要な薬剤が届けられるよう、24時間365日対応をしています。2つ目は薬剤師の“メンタル面”。医療者は患者の生命を守る、健康を維持するというプライドは持ちつつ、患者に対して“してあげる”ではなく、“させていただく”という姿勢が大切です。3つ目は“チームワーク”。在宅医療でも病院と同じような環境を維持しなければ患者や家族は不安になることがあります。その不安をできるだけ解消し、安心して在宅療養を継続していただくために、ヘルパーやケアマネジャーなど、多職種との連携・チーム力が重要になってきます」。
中矢さんは患者の自宅を訪問する際に、感謝・尊敬・祝福の心を忘れないように心掛けているそうです。「まず、その方に出会えたことに感謝し、次にその方には尊敬の念を持って関わらせていただき、最後にその方やご家族が幸せであることを祈り、祝福しています」。この3つの心掛けにより、常に安定した穏やかな気持ちでいられることで、中矢さん自身のモチベーションも高まります。また、患者や家族、スタッフなどから「より感謝されること」が仕事のやりがいであり、中矢さんのすべての活動の原動力になっているそうです。

多死社会の到来で、在宅医療普及は“待ったなし”

  10年程前、中矢さんはあらためて在宅医療の課題に気付かされたと言います。独り暮らしの父親が倒れ、病院に搬送したところ医師から「生きていくための栄養を摂る手段として腸ろうが必要」と宣告されます。中矢さんは悩んだ末、医師にこう尋ねました。「父親が先生の親なら、どうされますか?」。その医師の答えは「やらない」でした。「医療ができることと、患者・家族が望むことは同じではない。結局、父は腸ろうを造らず、在宅で療養し9か月後に逝きましたが、腸ろうから栄養を摂っていればもっと生きられたかもしれません。この葛藤は父親が遺してくれた課題でしたが、自分の選択は正しかったのか、整理がつくまで数年かかりましたね」。
 在宅医療を普及させるために必要なことをお聞きすると「目の前に迫っている多死社会に対して、医療者は“どうすれば在宅医療が普及するのか”を考えるよりも、“普及しなければならない時代が到来した”ことを自覚すべき。私で役に立つことがあれば何でもやります」と中矢さん。日々の薬剤師としての激務の中、薬学部生や看護師、ケアマネジャーに講義をしたり、薬局で研修生を受け入れるなど、教育・人材育成にも熱心に関わり、社会貢献しています。
 そんな中矢さんが「在宅医療連携拠点事業」に期待することをお聞きしました。「情報を共有し、チーム力が発揮できる真の連携ですね。多職種の方がそれぞれの仕事を完結していますが、“自分の業務をこなしているだけ”の感があります。本当の意味での連携はこれからだと思います。在宅医療の経験が無い方や浅い方は、“わからないところがわからない”状態だと思いますが、まずはトライしてみて、わからないところを見つけてください。一緒に頑張りましょう」。
 薬剤師として献身的に患者の生命と健康、生活を守りつつ、医療人として在宅医療の普及に全力で取り組まれている中矢さん。その活力源は、人としてのやさしさを大切にし、自らの責任を果たそうとする強い意志にあると感じました。

中矢 孝志さん

プロフィール

中矢 孝志(なかや たかし)
勤務先・役職:株式会社ホームメディケア ライフケア薬局 東野店・代表取締役
職種:薬剤師
生年月日:1961年9月12日
出身地:松山市
経歴:
昭和59年3月 神戸学院大学薬学部卒
昭和59年4月 松山調剤専門薬局入社
平成8年    独立
平成19年10月 法人化。薬局名をライフケア薬局に変更